燃えろ卒論

こんにちは。卒論を焼きにきました。

前回は観音菩薩についての説明と、何朝宗の白磁観音坐像を見て終わりましたね。色々と種類のある中でも最もスタンダードな観音さまについて説明し、それに白磁観音があまり当てはまらないな〜なんて感じでしたが、白衣観音という存在を発見しましたので、今回はそちらの説明からしましょう。

観音菩薩のかぎりない慈悲の心は白処に住むとするところから,白処尊菩薩とも呼ばれて信仰されてきたが,とくに補(普)陀落山(ふだらくせん)(ポータラカ)中の清流岩上に身をゆだねて思索する瞑想の世界は,白衣に象徴される清澄な境涯とともに禅的境地の顕現として禅宗にとり入れられた。そこでは過去の儀軌にとらわれることなく,三十三身に変化して一切の苦悩を消散せしめ,不吉を転じて吉祥となす観音のもつ自在性が尊重されたのである。水月(すいげつ),滝見(たきみ),楊柳(ようりゆう)といった背景のもつ意味もまたしかりで,すべては禅的精神の表象とみなされた。観音を囲繞する山水樹林も,衆生を包む現世の延長であり,頂上に垂れさがる薛茘(へいれい)は煩悩の象徴であって,修行はこれを払拭するためになされるのである。14世紀ころの初期禅林所縁の白衣観音図の図容は《大方広仏(だいほうこうぶつ)華厳経入法界品》の補陀落山中に安座する姿である。楊柳と水瓶(浄瓶(じんぴん))をともなうのは《請観音消伏毒害陀羅尼経(しようかんのんしようふくどくがいだらにきよう)》の〈楊枝浄水〉を供えて観音を召請する経説に由来する。[衛藤 駿]

以上、世界大百科事典「白衣観音」からの引用です。

また日本国語大辞典によれば、白衣観音とは、密教で、胎蔵界曼荼羅*1の中で観音院に描かれ、この院の諸尊を生み出す主尊后妃尊とされる女性尊(観音母)です。つまり、諸々の観音の母である、ということでもあるのです。

図像は白蓮華の中にいて、左手に蓮華を持ちます。頭から白衣を被って岩上に座る姿が多く水墨画の題材とされました。また、白衣観音と同時期に禅宗とともに日本へと持ち込まれた「楊柳観音」の主な図像は、右手に楊柳の枝を持っているか、または座右の花瓶にこれを挿しています。白衣観音楊柳観音はともに岩山を背景にくつろいだポーズを取り、水墨の画法で描かれるそうです。以下が具体的な図像です。

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白衣観音 図像

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楊柳観音 図像

楊柳観音に関しては花瓶を伴うという点で今後紹介する像に似たものがあるため紹介しました。白衣観音は頭の上から白いヴェールのように布を被る点、岩山や水瓶を伴う点が合致します。ということは、おそらく徳化窯で生産された白磁の観音像の多くは白衣観音なのでしょう。

観音の持つかぎりない慈悲の心、白衣の持つ清廉潔白さ、観音母という性質は、キリスト教聖母マリアにも共通する点と言えるでしょう。こういった特性を、鎌倉時代禅宗が取り入れたのち、江戸時代には隠れキリシタンたちが聖母マリアとして崇拝したのです。

 

繋がってきましたねぇ。楽しいです。

 

では続いて前回坐像を紹介したので今回は立像を紹介しましょう。

前回と同じく、何朝宗の刻印の入った観音像です。

釣り気味の目元とかたく引き結ばれた小さな口元は、やはり凛とした印象を与えます。心なしか前回紹介した坐像のふっくらとした顔立ちよりも幾らか細身で、下半身へと一直線にすらりと伸びていくようです。頭から被った布はそのまま胸下へと結ばれるか、袖へと伸びてゆきます。この丸みのある線が、柔らかな肩のラインを描いていて、薄い布の下に肌が透けるようです。手元の袖口は非常に複雑に幾重にも布が重なっている様子が見事に表現されており、ここにも布の質感を感じることができます。その皺が足元へと伸び、少しだけ翻っている部分がリアリティを帯びていて、磁器の硬さを一切感じさせません。裙(スカート)のひだから片足が覗き、腰を少し前に出して一歩踏み出す、そのわずかな身体の動きを表しています。足元の岩はほぼ見えず、組み合わさり行き交う波が生き生きと、まるで植物のように表現されています。

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何朝宗 白磁観音立像

Ming dynasty, early 17th century

H.20in., W.6 1/2in., D.5 1/2in.

Ringling Museum of Art, the State Art Museum of Florida

高さ20インチということですから、約50cmほどということでしょうか。非常に大きいですね。このような大きさでこのクオリティのものが作られていたということですから、いかに徳化窯が栄えていたか、また何朝宗の表現力がいかに優れたものであったかがわかりますね。

 

では今回はこの辺にしておきましょう。ここまでお読みいただきありがとうございました。

次回は白磁観音像を時期別・頭髪の特徴別で分けてみたいと思うのですが・・・果たしてできるのでしょうか・・・。

 

<参考文献>

日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年

John Ayers "Blanc De Chine -Divine Images In Porcelain" Art Media Resources,Ltd. 2002

『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2014年

吉田典代『NHK学園生涯学習通信講座 テキスト 仏像の美』NHK学園、2014年

 

*1:密教の教義を図示した二つの曼荼のうちの一つ。